お念珠の話(2)

お念珠の制作に挑戦

毎日、お念珠を使っていますと、緒(ひも)も次第にほつれて、突然切れたり、切れそうになるので、それまでに緒を新しく取り替えなければなりません。

今までは、数珠屋さんや仏壇屋さんにお願いしていたのですが、思い切って、自分で緒を取り替える事にしました。理由は二つあります。

一つ目は、緒の取り替えは、同じお念珠を新しく買うよりも高くつく事です。

数万円も数十万円もする高価なお念珠なら別ですが、我々が毎日の行法や勤行に使う梅や柘植などの、三千円程度のお念珠なら、新しく買った方が安いのです。

緒を替えなければ使えないのですから、高くても止むを得ませんし、それが嫌なら新しく買えばいいのですが、お念珠の収集家でもない限り、緒が切れたり、切れそうになる度に新しいお念珠を買う訳にもいきません。

二つ目の理由、これが最も大きいのですが、お念珠には、拝む者の祈り(念)が入っていくため、使い込めば使い込むほど霊験あらたかなお念珠となり、使い慣れたお念珠をいつまでも使い続ける事で、祈りも一層深まっていきます。つまり、お念珠は、古くなればなるほど、使い込めば使い込むほど、念も入り、色合いも深まって、有り難いお念珠に変身していくのです。

経済的な理由から言えば、緒を取り替えるより新しく買った方が安くていいのですが、信仰上の理由から言えば、新しく買うより、緒を取り替える方がいいのです。

以前、お袈裟の一つである如法衣(にょほうえ)を手縫いした経験があり、今も毎日の行法に使っていますが、お念珠の緒の取り替えは、まだやった事がありません。

と言うより、お念珠の緒の取り替えは、数珠屋さんや専門家に頼むもので、自分で取り替えるのは難しいと思い込んでいたので、自分で取り替えようとは考えもしませんでした。

しかし、「人間、どんな事でもやってやれない事はない」と考え直し、お念珠の緒の取り替えをした経験のあるお方はいないかと探したところ、有り難い事に、お念珠を修理した経験のある知り合いのお坊さんがいたのです。早速、弟子入りして、緒の取り替えを教えてもらいました。

お念珠の緒の取り替えは、見るからに難しそうで、最初はどうなる事かと案じていましたが、いざ挑戦してみると、思ったより簡単でした。

勿論、必要な道具や材料のすべてを師匠が揃えて下さった上に、教え方がとても分りやすく、私は、ただ師匠がする事を見ながら真似をすればよかったのです。

緒の取り替え以外に、房も梵天もすべて自分の手作りですから、完成した時は、少し感動しました。

一つ作って製作工程さえわかれば、誰でも作れますから、皆さんも是非挑戦してみて下さい。

勿論、珠以外は全て手作りですから、それなりの苦労はありますが、完成した時の喜びは何ものにも代えがたく、人に作ってもらったお念珠では絶対に味わえない感動があります。

道具を最初に揃えておけば、何度でも使えますし、自分が緒を取り替えた念珠ですから愛着もわきます。

四つ組みを練習しているところ
房の紐を編み始めるところ

制作する過程で、緒の結び方や編み方にも、実に多くの種類がある事を知り、とても勉強になりました。

一般的によく使われる結び方は、皆さんもよくご存じの「止め結び」ですが、念珠の緒の取り替えには、「叶(かのう)結び」「つゆ結び(男結び)」「巻結び」など色々な結び方が使われ、特に「叶結び」は、願い事が叶うようにという意味合いが込められた、とてもおめでたい結び方なので、日常生活にも活用できます。

緒の編み方にも、三本の緒を使って編む「三つ編み」の他に、四本の緒を使う「四つ組み」、六本の緒を使う「六つ組み」、八本を使う「八つ組み」などがありますが、お念珠は、「四つ組み」で編んでいきます。

最初に房を二組作り(写真1)、その房を、紐を通した108個の小珠に結びつければ完成です。

男性用のお念珠二つと、女性用のお念珠一つの紐の取り替えに挑戦し、出来上がったのが最後の写真(写真2)ですが、素人なりに上手く出来たのではないでしょうか。

編みあがった房(写真1)

完成した数珠(写真2)

お念珠の功徳

三つのお念珠の緒の取り替えと房の制作には、三日間を費やしましたが、何事も挑戦してみる事の大切さを、改めてお念珠から教わったような気がします。これもまたお念珠の功徳かも知れません。

仏式で結婚式をされた方はご存じだと思いますが、式の中で、二人が結ばれた証として、戒師様より、新郎新婦に、お念珠が授けられます。

新郎は、新婦のお念珠を戒師様から頂いて新婦の左腕に掛け、新婦は、新郎のお念珠を頂いて新郎の左腕に掛け、共にみ仏の弟子となって、敬い合い、愛し合い、支え合い、助け合いながら生きていく誓詞を述べるのですが、このお念珠には、ご先祖に対する敬いの心、供養の心を忘れないようにという教えと、二人が力を合わせて幸せな家庭を築いていけるようにという願いが込められています。

結婚式にお念珠が授けられるのを見てもわかるように、お念珠は、ただお葬式や法事に使う為のものではありません。

一般の皆さんには、”お念珠はお葬式や法事の時にだけ使うもの”というイメージしかないかも知れませんが、それではお念珠の功徳も、本当の有り難さもわかりません。

お念珠は、生きている我々が心豊かに生きていく為にこそ必要なものであり、人としての真心(菩提心)を養う上で欠かせないものです。

お念珠の起源を見てもわかるように、常日頃から身近に置いて、心の安らぎを得る為に使ってこそ、お念珠の価値が光り輝き、その功徳をわが身に頂けるのです。

一人でも多くの皆様が、お念珠の功徳を頂かれて、心安らかな日々を送られますよう、ご祈念申し上げます。

お念珠の話(1)